「アメリカロボット歴史を語る」シリーズ  No.2

著者:大永 英明

はじめに

シリーズ第一回は私がアメリカ留学卒業後、就職したロボット業界で尊敬しているユニメーションの社長であり、「産業用ロボットの父」である、Joseph Engelberger氏 (ジョセフ・エンゲルバーガー)とカリフォルニア在住の二人の起業家についてのお話をしました。今回も同様に最近発表されたロボットスタートアップ企業のタイムリーな買収ニュースを受けて、そのサクセスに絡んだお話をしていきたいと思います。

メロニーとの出会い

私が、メロニー・ワイズ(Melonee Wise)女史に出会ったのは、2013年のシリコンバレーで開催されたRoboBusiness (ロボビジネス)という展示会でした。私は、その会場で2013年1月に設立された、 パーソナルロボットとサービスロボットを、高度かつ手頃な価格で次世代携帯操作プラットフォームとして製造販売する会社Unbounded Robotics社に一目惚れしたのでした。

ロボットのハードウェアおよびソフトウェアに数十年の経験を持つ、ウィローガレージからスピンアウトしたチーム(共同創立者4人全員ウィローガレージ出身、ウィローガレージはロボット・オペレーティング・システムROSの開発で有名)が開発したのは、最先端のソフトウェアと洗練されたハードウェアの外観をもつモバイル操作プラットフォーム、UBR-1モデルでした。このUBR-1モデルの値段はウィローガレージの双腕ロボットPR2の40万ドルという価格と比べ3万5千ドルと安価で、弊社のオフィスから近い事もあり、新ロボット技術の「目利き」を自負している私は、即、代理店契約の交渉を始めました。

メロニーも長年ロボット業界に携わっているので、私の過去のロボット会社での経歴などを先輩としてリスペクトしてくれ、二人でこれからのロボットの方向性などの議論をしました。その時初めて私は、物流ロボットという世界を知ったのです。UBR-1のように腕を持った自律走行ロボットがこれからは倉庫で働くのだという彼女の熱い信念に、久々に若いがしっかりとビジョンを持ったロボット事業の起業家と出会えたなと、大変嬉しく思ったものでした。

翌夏には、UBR-1を日本にも出荷できるということで、日本での販売を開始し、日本の某大学からの受注があったのですが、UBR-1ロボットの技術デザインの部分で特許侵害があり、それが理由で、Unbounded Robotics社は閉鎖に追いやられてしまったのです。(結局ロボットは販売できず代理店の弊社としても平謝り!!)

2015年6月17日 – メロニーの新会社、Fetch Robotics, Inc. (フェッチ・ロボティックス社)がシリーズAラウンドでソフトバンクキャピタル、Oreilly AlphaTech Venture、Shasta Venturesから2000万ドル調達したというニュースが広まりました。その前後に、どう再会したのかは覚えていませんが、2015年の7月にはメロニーの新会社、Fetch Robotics, Inc. (フェッチ・ロボティックス社)と販売契約を結び、研究用アーム付き走行ロボットプラットフォームとして東京大学をはじめ、アジアパシフィック地域の大学、日本のAIロボットの研究機関にご購入頂きました。https://xtech.nikkei.com/it/atcl/column/15/061500148/081800018/

九州大学のシリコンバレー研修学生20数名たちにレクチャー中のメロニー

そもそも、産業用ロボット畑で育った私がどうして、サービスロボットに関わっているかという背景を少しお話します。2004年にアデプト・テクノロジー社を退職し、独立した頃、大阪市のRTO (Robot Technology Osaka)プロジェクトのアドバイザーとして招聘され、サービスロボットなどの非製造ロボット技術を持ったアメリカ全土の会社を調査したのが、私とサービスロボットとの関わりの始まりです。当時、大阪市およびJETROのプロジェクトで全米の新ロボット製品や技術、例を挙げるとボストンのアイロボット、セグウェイや私の古巣であるピッツバーグ市のカーネギーメロン大学スピンアウトといった多くの会社を調査し、その頃のほとんどのロボットが産業用ではなく次世代のサービスロボット技術であったところにあります。(その頃にテレプレゼンスロボットに出会って、2009年に日本に案内しました。この話は別の機会に...)そのヒアリングを行った会社の数が100を超え、「目利き」としての能力を養ったわけです。

2004年にシリコンバレーで開催された RoboNexusが進化した形態の展示会・コンファレンスがロボビジネスです。その、2016年のロボビジネスでのメロニーによる講演では、「現在アメリカでは約60万人もの物流関連の仕事が満たされていない。この労働不足を補うためにAMR(自律走行ロボット)の導入が急務である。そのためには2Dレーザーや3Dカメラを使った安全なロボットのシステム構築と導入が重要な鍵となり、安全規格は重要だ。安全性等に関連するセンサーは日進月歩で開発が進んでおり、安全性に伴う技術革新も進んでいる。AGVとAMRは全く異なるものである。従って従来のAGVの安全規格はAMRには適用できないという現実を業界は理解する必要がある。」と述べていました。(ですよね。新しいものには新しい考えで...)

今思い出されるのは、「Novel Approaches to Mobility in Industrial Applications」というタイトルで、フェッチ・ロボティクス 、ローカス・ロボティクス(Locus Robotics)、インヴィア・ロボティクス( inVia Robotics)、そしてシーグリッド (Seegrid)によるパネルディスカッションが行われた時の話です。それぞれの会社とは繋がりがあり、フェッチ・ロボティクスは冒頭に説明したように弊社取扱メーカーです。インヴィア・ロボティクスも、先日プレスリリースした通り、昨年末に弊社との提携契約をし、本年1月に取り扱いを開始しました。シーグリッドは前述のRTOプロジェクトで訪問した会社であり、当時のCTOは私が最初に勤めていたユニメーション社での同僚という事で、何だか知り合いとのスタバでの雑談といった感じのディスカッションをしました。

その時のメロニーの発言の抜粋は次のとおりです。「実際の環境で稼働するユーザー・フレンドリーなシステムの提供を目標としている。ウィローガレージ(Willow Garage)の時代にいろいろとロボット開発の方向を検討したが、ちょうど物流のニーズが高まってきた時期と技術的開発の興味が重なった。WMS (Warehouse Management System)との接続なしで、いかにして効果を出せるのか実績を紹介、それからWMSとの統合を行っていくという戦略を持って進めている。」

フェッチの社員と東京の物流カスタマー倉庫を訪問する待ち合わせ中にコンビニで買った朝食中

信じあえる人間関係構築が大事

今改めて思うのは、いろんな出会いを大事にして、人間関係を築くことの重要性です。せっかくの出会いが有っても、誠実な信頼関係がなければ、何も生まれません。幸いにもメロニーと私はお互いをリスペクトし、信頼関係が構築されていたので、2013年の出会いから今日まで友好的な関係で続いてきました。

成功の裏には大きな苦労や代償

起業家として苦節8年、最初の会社を閉じることになったり、私生活でも大変苦労されたメロニーですが、2021年7月1日、Zebra Technology による吸収合併の予定であるというExitの発表がされました。

https://www.zebra.com/us/en/about-zebra/newsroom/press-releases/2021/zebra-technologies-to-acquire-fetch-robotics.html

メロニーは、100名以上の従業員に育てた会社を吸収合併という大きなExitマイルストーンとして達成させたのです。タイムズ誌やMITジャーナルに、今注目の30代女性起業家として活字にされ、彼女のプレッシャーは相当のものであったと思います。

私の息子と同い年という親近感もあり、東京で合流した時は、弊社に務める息子とメロニーと一緒によく飲み交わしました。昨日、祝いのメールを贈り、一緒に乾杯しようと約束しました。コロナ禍でいつになるか、わかりませんが、とにかく乾杯!!

今晩もカリフォルニア・ワインが美味しそうだ。

東京での会食