「アメリカロボット歴史を語る」シリーズ No.3 – エンゲルバーガー賞

著者:大永 英明

エンゲルバーガー賞とは

エンゲルバーガー賞(Joseph F. Engelberger Robotics Award)は、私が最初に就職したユニメーション社の社長で「産業用ロボットの父」と呼ばれるジョセフ・F・エンゲルバーガー博士(「アメリカロボット歴史を語る」シリーズ No.1)の名前を冠した賞である。ロボット分野最高の賞とも言われている。私が就職したあと、1977年から始まったこの賞は、1981年から技術・応用・教育の3部門に分かれ、1989年にリーダーシップが加わり、4部門制として運営されている。

産業用ロボットの父
ジョセフ・エンゲルバーガー氏

身近にいるこれまでの受賞者たち

ロボット業界にいる人間であれば、そのうちに是非欲しいと思う賞である。勿論、私も若い頃はそれを目標に励んだものである。

初期の著名な日本人受賞者に、長谷川幸男、稲葉清右衛門、加藤一郎 (敬称略)がいらっしゃる。当時、私は、エンゲルバーガー社長と何回か日本での技術提携先、川崎重工へ訪門する事があり、これら大先生について良く語っておられたのを覚えている。

1977年以来、本年で世界から134名の受賞者がいる。個人的にお会いした事のある方や一緒に仕事をした受賞者を数えてみた。多分、数え抜けている人もいるが20+名もいる。カンファレンスや手紙、メールのやりとりだけの関係であれば30名近くだろうか。長くロボット業界にいるので、面識も多いのは当然かもしれないが、アメリカでロボットのメインストリームの会社に勤めて、今日に至ることを非常に幸せと感じるテーマである。

ユニメーション社時代の元上司、Dunne, Maurice(モーリー)、(以下受賞者リストの記載方式、姓名順、敬称なしの表現で失礼いたします。)ユニメートロボットの発明者、Devol, George (2回ほどモーリの部屋で会った)、ユニメーションでのマーケティング、アプリケーションの副社長、Munson, George、ピューマロボットの前身、MIT アームやスタンフォード・アーム(現在もスタンフォード大学のゲイツビルディングに展示されている)の発明者、Scheinman, Victor、そしてユニメーション・ウェスト(のちにアデプトテクノロジー社を創業)でピューマとVAL II 言語を開発した、Carlisle, BrianとShimano, Dr.Bruce E. (「アメリカロボット歴史を語る」シリーズ No.1)、そして私と一緒に次世代制御装置開発でソフト開発マネージャーだった、Krishnamurthy, Balaがいる。

次世代制御装置を開発するとき、当時、アメリカ国家標準局でロボット・FA制御の標準化を推進していた、Albus, James (ジェームス・アルバス)をバラ(Bala)と他のチームメンバーと訪門してアルバス氏から制御階層について学んだ。

ユニメーションがウェスティングハウスに買収され、その後、スイスのストーブリ社に買収される頃に知り合ったStäubli, Anthony、その後、私がアデプトテクノロジーに移籍した後での上司、友人、 Duncheon, Charlie 、そして同僚であったBuchi, Felix Switzerland やCraig, Dr. Johnとも出会った。

仕事がらみでは、ユニメーションの時代に当時SRIのディレクターであったRosen, Dr.Charles A. のチームとの共同プロジェクトに参画した。ウェスティング時代にはピッツバーグでKanade, Professor Takeo (金出武雄 )出会い、家族ぐるみで懇意にしていただいた。Robotのカンファレンスで次世代ロボット制御装置のプレゼンをした時の同じセッションでDay Chia(現在FoxConn)と出会い、後に転職を勧誘された。(転職しておれば、今頃、台湾のフォックスコンで働いているかも。笑)

アデプトに移籍する前に独立した頃(イノベーション・マトリックス以前)、ピッツバーグでの講演会セッションでRed Zone RoboticsのWhittaker, William “Red” に出会ったり、日本の某ロボットメーカーのコンサルティングの仕事で当時、ロボットシステムインテグレーションビジネスの最高峰であったカナダのATS Automation Tooling Systemsの創業者であるWoerner, Klausを訪門した。

アデプト時代には、韓国サムソンのKim, Jin Oh と半導体ロボットプロジェクトでコラボした。

イノベーション・マトリックスを創業してからはRTO (Robot Technology Osak)プロジェクトでボストンにあるiRobot社を訪門し、Brooks, Rodney (ロドニー・ブルックス )バレットテクノロジー社を訪門しTownsend, William、と出会ったり、スカラロボット開発者である、Makino, Dr. Hiroshi (牧野洋)がアメリカのロボット殿堂入りした授賞式でお目にかかり、日本でのビジネス関連でもお会いする機会を頂いた。

2022年アワード受賞者の二人の友人

さて、本題にはいろう。

2022年にエンゲルバーガー・ロボティックス・アワードを受賞した6名中に、私の知人が2名いるので紹介したい。

そのうちの一人、スタンフォード大学のロボット工学者でコンピューター サイエンスの教授である Oussama Khatib (オーサマ・カティーブ)博士は、ロボットの動作プラニングと制御、人間に優しいロボットの設計から、触覚相互作用と人間の動作の合成に至るまで、さまざまな分野で独創的な研究を行ったと評価された。彼(スタンフォード大学)とユニメーション社は産学共同開発の関係にあり、未だ、彼の属するスタンフォード大学の研究室にはロミオとジュリエットと命名されたピューマロボットが2台ある。彼とはRTO プロジェクトで同じ便で大阪に行き、プレゼンをしたり、一緒に道頓堀にフグを食べに行ったりした。寿司大好きの教授だ。

そして、Innovation Matrixとパートナーシップを結ぶ Zebra Technologies に買収されたFetch Roboticsの創設者であるメロニーワイズ氏(「アメリカロボット歴史を語る」シリーズ  No.2) が、ロボット工学の最高位エンゲルバーガー・ロボティックス・アワードを受賞した。メロニーワイズ氏は、2021年に Zebra Technologies に買収されるまで FetchRobotics のCEOを務め、現在Zebraの Robotics Automation 担当副社長兼ジェネラル・マネージャーを務めている。約20年にわたり、ワイズ氏はロボットのハードウェアとソフトウェアの設計、構築、プログラミングを行ってきた。ロボット専門の研究開発研究所であるWillow Garage の 2 番目の社員として、次世代ロボットのハードウェアとソフトウェアを開発するエンジニアのチームを率いていた。2014年、Willow Garage の他のメンバーとともに、倉庫向け自律走行ロボット(AMR)で知られる Fetch Robotics を設立した経緯がある。弊社とはそれ以来の付き合いである。

日本来日時のメロニーワイズ氏

オーサマ、メロニーさん、おめでとうございます!これからの益々のご活躍を楽しみにしています。

ここで紹介した数多くの受賞者を初めとした素晴らしい人達と出会うことができたロボット産業に感謝!

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