RoboBiz2019リポート 2

ロボットがオートバイを運転する!レーシングロボット「MOTOBOT」

アメリカ最大のロボットカンファレンスRoboBiz2019から、興味深かった講演内容や会場の様子等を「RoboBiz2019リポート」としてお届けするシリーズです。

今回は、あのヤマハ発動機も開発に携わっている、レース用オートバイを運転する自律型ロボット「MOTOBOT」の紹介と開発秘話を、ヤマハと一緒に開発に携わったSRIインターナショナルのロボティクスディレクター、トーマス・ロー (Thowas Low) 氏の講演からお届けします。

MOTOBOTはヤマハ発動機とSRIインターナショナルで共同開発されました。SRIインターナショナル (SRI International) は、世界で最も大きな研究機関のひとつです。1946年にスタンフォード大学によりスタンフォード研究所として発足しましたが、現在は完全に独立したアメリカの非営利組織として研究を行う法人となっています。

今回のセッションで、ロー氏はまずMOTOBOTを可能にした独自のSRIの技術について紹介しました。その後に、ヤマハ発動機とMOTOBOTを開発する際、技術的およびビジネス上の課題をどう克服したのか、という具体的な説明がありました。それは、産業や政府といった困難な問題を持つ顧客のニーズに応えてきた、SRIが持っている3つのポイントに集約されます。1つ目は、ペースの速いハードウェア開発プログラムでリスクを管理すること、2つ目は、プロジェクトの技術目標とビジネス上の必須事項とのバランスを取ること、3つ目は、ムーンショットプロジェクトを使用してチームの結束を構築すること、です。

SRIとヤマハ発動機が開発した最新の「MOTOBOT Ver.2」は、人間のオートバイを定められたコースで運転する自律型ロボットです。サーキットで時速200km以上で走行することを目標にテスト開発が進められ、ついにその目標値に達しました。さらにもう一つの目標は、モーターバイク・レースの最高峰の一つ「MotoGP」のトップライダー、バレンティーノ・ロッシ選手のタイムを超えること。勝負の結果はロッシ選手の圧倒的な勝利となりましたが、MOTOBOTの大きな進化を感じるレースになったようです。

レースの様子→https://www.youtube.com/watch?v=BjZPvXKewFk (YouTube)

このレースで使われたオートバイは人間用のもので、MOTOBOT用にいっさい改造は行われていません。タイム計測は、MOTOBOTとロッシ選手が同じオートバイに乗って行われました。人間用のオートバイをそのまま使うということで、MOTOBOTはアクセルやブレーキ、ギアチェンジや重心移動など人間と全く同じ動きやバランス制御で、ライディングを実現しています。MOTOBOTはカメラもLiDERも一切搭載されておらず、自律型ロボットとはいうものの、自分で障害物を回避する等の環境の変化に対応していません。その代わりに、車両の位置の測定と予測については高精度のGPSシステムを使っていて、その粗さを補うためにIMUにより、cm単位で位置を割り出しています。事前に走る対象のコースとして外周と内周の構成値データを入れて、それをもとに指定した走行速度で走るためのデータを与えると、MOTOBOTはコンピュータが計算した規制に沿って走行する仕組みです。サーキット走行に特化する仕様なので、コース通りに正確に走行するのに必要な技術だけのシンプルな構成となっています。

MOTOBOTの製作過程で開発されたテクノロジーは、将来の製品開発や製品テストに利用されています。これには、より安全かつ高性能に動作するバイクの開発や、MOTOROiDのようにな無人運転バイクも含まれているそうです。

講演の中で披露された、デモ前日にロー氏の操縦でMOTOBOTを破損させてしまい、全員が徹夜で修復したという苦労話の中にプロジェクトチーム結束の秘訣が見え隠れしていた気がします。SRIは次は飛行機を操縦するヒューマノイドの開発を示唆しており、SRIの飽くなき挑戦は続いていくようです。

私はロボットがレーシングオートバイを操縦する日が来るなんて、そんな発想もありませんでしたし、想像もしていませんでした。MOTOBOTが実現した、まるで人間のようなしなやかな重心移動には、感動を覚えるものがあります。こうしている今も、想像を超えるロボットの開発が次々と行われているのでしょう。私たちをあっと驚かせるロボットに出会えるのが楽しみです。今回の講演では、人間の好奇心や探究心は無限の可能性を秘めている、と改めて感じさせる講演でした。

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