RoboBiz2019リポート 3、-AI×協働ロボティクス-

アメリカ最大のロボットカンファレンスRoboBiz2019から、興味深かった講演内容や会場の様子等を「RoboBiz2019リポート」としてお届けするシリーズです。

今回は、今年のカンファレンステーマである「 AI× 協働ロボティクス」という視点から、最初の基調講演を行った、カーネギーメロン大のロボット工学の教授であり、BioroboticsLabの共同ディレクターおよびRoboticsMajorのディレクターを務めるハウィー・チョセット教授(Howie Choset)の講演をご紹介します。

4年前の「ロボビジネス2015」から毎年、AIがロボティクスの主要テーマとして取り上げられています。AIとロボットの融合がその焦点であり、今年は「AIを介した協働ロボティクス」が大会全体のテーマでした。そんな文脈の中で行われた、今年最初のRoboBizでの基調講演でチョセット教授が取り上げたテーマは「AIによる救助:製造業における高度なロボット工学の未来(AI to the Rescue: The Futureof Advanced Robotics in Manufacturing)」です。

彼が焦点を合わせているのがアメリカのものづくりをについてです。それについて、次のことを考察しています。すなわち、アメリカのものづくりがアジアやヨーロッパに立ち後れた理由、その遅れを取り戻し逆転するために必要な措置、われわれアメリカが今どこにいてどこに行くのかを誰も予測できない原因、そしてロボットの民主化は産業をどのように変えるのか、ということについてです。

それを解説するために、彼はNASA(アメリカ航空宇宙局)が1989年に定義した「TRL( Technology readiness levels:技術成熟度レベル)」という概念を用いました。いわく、大学や研究機関における活動の対象は「Level1 −基礎理論の着想段階」「Level2−技術要素の適応、応用範囲の明確化」に当たります。一方で産業の対象となるフェーズは「Level7 −システムとしての技術成立性の確認」「Level8 −システムの運用テスト、認証試験」「Level9 −最終段階、実運用」が当てはまります。

それに対してレベル3〜6はアメリカにとって、いわば“死の谷”であるというのです。大学での基礎研究やそこで生まれたアイデアを、起業家がビジネスへとつなぐためには、投資を得て「Level3 −技術実証のデモンストレーション(Proof of Concept)」「Level4 −ラボレベルでの実証」「Level5 − シミュレート及び実空間での実証」そして「Level6=システムとしての技術成立性の確認」へと移行していく必要があります。このフェーズが”死の谷”となってしまうのには、学術レベルと産業レベルのスタンスの違いに要因があると彼は言います。学術の分野では創造性と大きなブレークスルーがすべてで、仕事は助成金ベースであり、リスクに対する恐れはほとんどありません。一方産業では、販売する製品の成長する進歩に価値があり、投資家は利益を期待し、実際に失敗すると大きな損益となります。

このギャップの中で、彼は、現在の米国における主要な産業用ロボット製造の欠如の影響について心配しています。彼が、現在の一般的な産業用ロボットのリストを共有した際も、米国製のロボットは1つもありませんでした。「現在、ヨーロッパ人とアジア人がこれらのロボットを作っている。そして、これは国家安全保障の問題である。」と強い危機感を持っています。

彼の目指す高度ロボット製造のゴールは、労働者に力を与え、能力の民主化を促し、雇用を創出し、アメリカのリーダーシップを取り戻すことです。現在、アメリカの製造業は小規模工場が全体の98.6%を占めています。従業員20名以下の企業が75.3%であり、彼らに力を与えることでアメリカ全体の生産効率を高めることができる、と氏は語っています。

その昔、コンピューターは大型かつ高価であり大企業しか所有できませんでした。それが今や中小企業はもちろん一般家庭にもパソコンがあります。同じように小規模工場にもロボットは必要であり、使いやすい値段の手頃なロボットが求められています。ところが国別のロボットの導入数は1位が中国で13万8千台、2位の日本が4万5566台、3位が韓国の4万1373台であり、アメリカは3万3192台にすぎません(2017年)。

講演するチョセット氏

なぜアメリカは死の谷を越えることができないのでしょうか──それはラボで機能する研究を現実の世界に移行する、という方法を確立するためのコンセンサスを取る方法や手法がないからです。また実際にコミュニティは科学的な方法に従っていない──そうチョセット教授はコメントし、「われわれは本当に適切な問題を解決しようとしているだろうか?」という問い掛けを講演を最後に投げかけます。

また一方で、「ロボットがこれまで以上に人とやり取りするようになる。 現在、”コラボレーション”とは、人間が怪我をすることなくロボットの近くで作業できるようにすることだが、それを超越し、ロボットと人がお互いの強みでプレーするモデルの範囲がますます増えている。」とも語ります。

研究レベルと産業レベルのギャップを解消し、アメリカの製造業で積極的にロボットが使用され、両分野共にさらなるロボットの進化が達成されることを期待します。日本も導入数は相対的に高い現状があるようですが、まだまだ産業においてロボットによる自動化が進んでいないのも事実です。氏の言うように「ロボットと人がお互いの強みでプレーする形」を実現していきたい、それがロボットを扱う会社としての1つの使命であると感じました。