RoboBiz2019リポート 4
-AI ×スキンケアの化学-
アメリカ最大のロボットカンファレンスRoboBiz2019から、興味深かった講演内容や会場の様子等を「RoboBiz2019リポート」としてお届けするシリーズです。
今回は、米パロアルト研究所( Palo Alto Research Center :PARC)のマーカス・ラーソン(Markus Larsson)グローバルビジネス開発担当副社長によるコンピュータービジョンをテーマにした講演の中で、深層学習(Deep Learning) を活用した肌分析ができるプラットフォームを開発し、スキンケアをよりスマートにパーソナライズ化させることに成功した、という講演をご紹介します。
コンピュータービジョンの最近の代表的なアプリケーションは顔認識、自律運転そしてロボットのピッキングのための画像認識が一般的です。しかし、PARCが開発に乗り出したのはスキンケアのプラットフォームでした。米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の依頼を受け、顔認証および分析を画像処理で行う「OLAYスキンアドバイザー」を2016年にリリースしました。「OLAY」はP&Gの化粧品ブランドの一つです。
現在のスキンケアは、すでに市場に流通している大量の商品から、消費者が自ら選ぶという形です。これには、消費者が科学的なスキンケアの知識が不足しているため、知識のないまま実験的に製品を使用することで、フラストレーションや無駄なお金、および望ましくない結果につながる可能性がある、とPARCは言います。

そこでPARCとOLAYは、複雑な顧客のニーズに応えるべく、自撮りとセンサーに基づいたスキンケアソリューションを個別にアドバイスができるという、新しいタイプのビジネスモデルの構築に乗り出します。まず、PARCとOLAYは、OLAYの顧客をよりよく知るため、インタビューを実施し、顧客をよく観察しました。そして、テクノロジーベースのソリューションを作成するため、戦略的ロードマップを共同で構築します。それに基づき、まずPARCはユーザーエクスペリエンスデザインチームとコンピュータービジョン科学者が緊密に連携し、照明、カメラの距離、表情などの変数を制御することで、最適な条件下でユーザーが自撮りを撮影できるソフトウェアを開発しました。その後、PARCの機械学習の科学者たちは、自撮りから肌の状態を予測するディープラーニングアルゴリズムを開発し、検証のデータよりいくつかの等級に分けた人間のデータベースから、ターゲットの肌の特徴を検出するために訓練されたモデルを開発。そして遂に、PARCとOLAYはプロトタイプのデザインへと進んでいきます。PARCは完成度の高い”OLAYらしい”プロトタイプを作り上げることで、OLAYの顧客を自然と誘導し、開発中のプラットフォームとともに、ユーザーの検証を行うことを可能にしました。この際、ユーザーエクスペリエンスを最適化し、サービスから離れることを最小限に抑えるために、PARCは次の2つことを意識したと言います。1つ目は、ディープラーニング分析のため、入力データの品質を最大化するために(単にユーザーにとって見栄えの良いセルフィーであるのではなく)セルフィーを撮ることを通じて顧客を導くインターフェイスを設計したこと。2つ目は、パーソナライズされたわかりやすい推奨事項を使用して、重要な情報をユーザーに返す最適な方法を検討したこと、です。
その結果、PARCとOLAYは、コンピュータービジョン、ディープラーニング、適応型推奨の3つの形式の人工知能を備えたWebベースのプラットフォームから始めることにしました。繰り返し使用すると、結果が改善され、より深い洞察が得られるだけでなく、各ユーザーとOLAYの間の持続的な関係が深まる効果も期待できます。

こうして、顧客がスマートフォンなどで自撮りした写真をアップすると、AI が分析して皮膚年齢スコアを出力し、皮膚の老化に関する大量の画像データを基に深層学習を行うシステムを作り上げました。深層学習の結果を顧客に提供して、自分の肌に合ったスキンケア製品を提案するという新しいビジネスモデルを作り上げ、これによってOLAYの通販サイトへのコンバージョン比率はそれまでの約2倍になり、売り上げが約40%増えたといいます。
その後、PARCとOLAYは、パートナーシップを継続させ、どのようにプラットフォームを成長および拡張させるかを模索しています。
コンピュータービジョンのアプリケーションが、製造業で展開されることが多かった中、”スキンケア”という美容の世界で、アプリケーションを展開させたPARC。その結果、新しいビジネスモデルを作り上げ、深層学習を通じたパーソナライズ化したサービスを提供することに成功しました。そしてそれは、顧客にも会社にも多大なる恩恵をもたらす結果となりました。今回の講演では、AI・深層学習がどの分野においても、新しい価値やサービスを生み出す、重要なツールになることを実感しました。
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