米シリコンバレー「RoboBusiness」を振り返って
2、ロボティクスとAIの融合
(筆者:大永 英明)
ロボットマーケットの最新動向を、毎年開催されるRoboBusinessから見つめるシリーズの第2弾です。
昨年の秋に開かれたRoboBusinessの中でも存在感を大きくしているのは、やはり「AI」のようです。2015年のRoboBusinessでは、GoogleでAI開発の総指揮者を務めているレイ・カーツワイル氏が「訪れつつあるロボティクスとバイオロジーの融合」と題して基調講演を行いました。彼は、AIの能力が29年ごろに人間の能力を超え、45年にはAIが全人類の知能の総和を超える能力を持つ瞬間「シンギュラリティー(技術的特異点)」が訪れると予測した人物です。それ以降、AIの存在感は増し続け、2017年のRoboBusinessのテーマは「オートメーションとAIによるビジネスの進歩」、そして、2018年は「AIを介してのロボティックス」と、AIが前面に押し出されたテーマとなっています。

AIの進歩は想像をはるかに超えるスピードで進化しています。来るべきシンギュラリティーの先にはどのような未来が待っているのか、世界中で「2045年問題」が語られています。その鍵を握るのが、AIとロボットの融合であり、2017年のRoboBusinessの最大のテーマとなっていました。その2017年のRoboBusinessの中で、「パワーユーザーによるロボティクスとAIの熟達」というタイトルで、企業がどのようにロボティクスとAIをうまく開発し、展開できるかについての洞察を共有する、グローバル企業のエグゼクティブたちによるセッションが行われました。パネリストの顔ぶれと主な発言は以下の通りです。
- DHLサプライチェーン、ソリューション設計ディレクター、ジャスティン・ハ氏「eコマースの発展により労働力不足が加速している。ロボットやAIによるサプライチェーンの改善に期待したい。これからの物流の改善は、各々のニーズに合致するロボットメーカーを見つけ出し、パートナーと一緒に将来を構築していくことが鍵になる。そのため今、世の中に何があるのか知ることが重要だ。」
- GEグローバルリサーチ リード・グローバル・ロボティクス&オートメーション・エンジニア テレンス・サザン氏「GEではさまざまな部品が開発されている。それらのパーツを以下に処理するのかという問題には、AIによる支援が必要だ。深層学習がその手法の一つであり、インテリジェンスこそが未来である。自律走行は将来の必須事項である。」
- インテル、CTO・知覚コンピューティンググループ、アンデルス・グラネットージェプセン氏「インテルはこれまで多くのAI関連の会社を買収してきた。そのテクノロジーをドローンやナビゲーションに使うAIチップの開発につなげていきたい。」
- NASAエイムズ研究センター、インテリジェント・ロボティクスグループ・ディレクター テリーフォン氏「現在、NASAでは無人機操縦に力を入れている。宇宙飛行士なるのは簡単なことではない。そのために宇宙に携わる人間は不足している。いずれは宇宙飛行士に替わってロボットが宇宙探索する時代が来る」
この流れを汲んで、2018年は「AIを介してのロボティクス」となったわけですが、それを具体的に行っている企業NVIDIAのディープ・タラ氏(Deepu Talla)の2018年の基調講演をご紹介します。NVIDIAは、現在、急成長しているプロセッサ・GPUを作っている会社です。今はやりの膨大なデータ深層ニューラルネットワークでの計算を可能にしたのが、最新のGPUという演算装置です。本来、3Dグラフィックス用途に設計されたプロセッサ・GPUは、その高い演算性能から、近年急速に需要が高まっているAIに必要となる大量のデータをもとに膨大な計算処理を行う深層学習用に活用されています。
AIは、現在、最も強力な技術であり、ロボット工学のために新しいレベルの自律性を可能にします。 これは、マシンに世界を認識させてナビゲートする機能と、人とシームレスに対話してオブジェクトを処理する機能を提供するでしょう。 アプリケーションには、人と安全に作業できる製造用ロボット、在庫を管理し小売業務をサポートできるロジスティクスロボット、食料や製品を必要に応じて運ぶラストマイル配送ロボットなどが考えられます。
基調講演では、AIがどのようにロボットのブレークスルーを推進する上で重要かを議論し、さまざまな業界の成功事例を紹介していました。強力なハードウェアと堅牢なSDKを組み合わせたIsaacロボットプラットフォームでNVIDIAが何をしているのかの詳しく説明がありました。「AIとロボット工学, 我々は、現在、すごくエキサイティングな時期にいる。今や、深層学習がコンピューターのソフトウェアを書くまでになった。」とタラ氏は言います。
知覚 ->計画する理由 ->アクションの繰り返しがロボット制御のループです。最近のロボット工学におけるAI用途は、光学検査、建設、農業における除草、収穫にまで至っています。特に、物流における、ラストマイル配達、在庫管理、ドローンによる検査や配達などは顕著です。また、画期的な研究としては、オブジェクトの検出/認識、ハンドリング、ダイナミック空間でのリアクション軌跡プラニング、ソフトグリップのシミュレーションが挙げられます。
NVIDIA社では、NVIDIA issacというSDKを提供しAIをつかったロボットのシミュレーションから実装配備までできるプラットフォームを提供しています。また、NVIDIA Jetson AGX Xavier開発キットを使用することにより、製造、出荷、小売、スマートシティなど用のAIロボットアプリケーションを簡単に作成して展開できる世界初の自律マシンプロセッサを販売しているようです。NVIDIAのAI/ロボット工学に対する意気込みを感じました。
さて、AIが実用化されるにつれ、社会にはどういった影響を与えるのでしょうか。次回はAIと雇用について論じたく思います。
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