米シリコンバレー「RoboBusiness」を振り返って

-4.RoboBusinessに見るロボットの変遷

(筆者:大永 永明)

 ロボットマーケットの最新動向を、毎年開催されるRoboBusinessから見つめるシリーズの第4弾です。

今回は、思考を変えて、このカンファレンスの前身、「RoboNexus」(2004年開催)からのロボットビジネスの変遷を見ていきたいと思います。

 実は2004年当初は、日本から出品された二足歩行のロボットやエンターテインメント系のロボットの展示が目立っていました。確かに人目は引きますが、世の中を大きく変えるようなインパクトには欠けていました。目新しいだけ、便利なだけではロボットは普及しません。というのも、ロボットの発展を考えるに当たっては利便性と必要性を区別して考える必要があるからです。便利、ではあっても社会的問題を解決できないロボットは人間社会に貢献することは出来ず、ビジネスとしては成り立たないのです。

 では最近の動向はどうでしょうか。ロボットビジネスの状況は大きく変わり、サービスロボットに対する具体的なニーズの高まりを見せています。それに伴い、その期待に応えようとするエンジニアたちが次々とベンチャー企業を立ち上げ、そこに前回記述したように投資家たちから大量の資金が流れ込んでいる図式です。いわば“ロボットブーム”と言ってもいいでしょう。

 特に今、ロボットの必要性が高い分野と考えられているのが、「介護」「農業」そして「物流」です。ただ、アメリカでは高齢化先進国の日本より介護ロボットのニーズは高くありません。患者の体格は大きく、重量などの仕様設計の幅が広くなるので、解決すべき問題が複雑になると思われます。一方、物流はインターネット通販の爆発的な普及によって、日本と同様にアメリカでも人手が深刻化しています。日本ではヤマト運輸の運賃値上げのニュースで、業界の人手不足が表面化していたのが記憶に新しいですね。アメリカでも同様に、物流作業において、常に約60万人の作業員が不足しているというデータがあるほどです。

 この現状に対し、真っ先に物流ロボットを導入したのがインターネット通販の最大手、アマゾンです。2012年にロボットメーカーの米キバ社(KIVA)を買収し、これまで2万台以上の物流ロボットを導入しています。

 その翌年の2013年にはRoboBusinessにて、ドローンの活用やグーグルによる自動運転車の開発が大きな注目を集めました。さらに、そのイベント終了直後の13年末から14年初めにかけて、グーグルが東大発のロボットベンチャー「SHAFT」をはじめ、7社を立て続けに買収しました。

 そうした流れの中で、2015年のRoboBusinessでは、そうしたベンチャー企業が開発している物流ロボットが数多く展示され、セミナーにも「物流」セクションが新たに加えられる形となりました。こうして「物流」がアメリカのロボット開発における最もホットな分野となったのです。

 グーグルのロボット開発部門のトップにいたカフナー氏は、2016年にトヨタ自動車の人工知能研究所「トヨタ・リサーチ・インスティテュート」のCTO (最高技術責任者)に引き抜かれる形で就任しました。2016年のRoboBusinessの基調講演での彼のテーマは「クラウドロボティクス」でした。次に内容を要約します。

 ー現在、コンピューティングはデータセンターなどの活用によって分散化されるようになった。ロボットとはコンピューターのスーパーセット(上位集合)であり、ロボットもまたクラウドでの利用が可能となっている。クラウドに繋がれたロボットが一般家庭で利用されるようになるのもそう遠いことではないだろう。しかし、その実現には①ロボットの能力②コスト③信頼性と安全性ーという3つの要素が満たされる必要がある。

 トヨタのリサーチ研究所では、本体には頭脳を搭載せずにクラウドを利用する「リモート・ブレイン・ロボット」の研究が進められている。このクラウドロボティクスの特徴は、知識の共有、複雑な計算作業のリモート化、そして動作やスキルのデータベース化である。その画像をクラウドに送ると、それが何であれ、どのようなアクションを取れば良いのか教えてくれる。

 現在、グーグルをはじめとする多くの研究所がこの仕組みを物流作業に応用しようとしている。様々な形状の画像を提示するだけで、どうやってそれを掴めば良いのか、ロボットが判断できるようようにするための研究が進められている。製品を掴み、取り上げるというピッキング動作のためのプログラミングを不要にしようという訳である。

 なお、トヨタでは人間支援ロボットも開発しており、そのOSにはオープンソースの「ROS(Robot Operating System」を採用している。さらには最近、ROSの普及を目指すROS基金に対して100万ドルを寄付した。ROSもロボットブームを加速させている要因の一つである。

Fetch Robotics メロニー・ワイズCEO


 2017年のRoboBusinessで、弊社がアジアで代理店をしているフェッチ・ロボティクスのメロニー・ワイズ氏(Melonee Wise)が「インテリジェンスとオートメーションの未来」と題し、AIやロボットによって産業の変革を進めていくために、過去のロボットビジネスをの教訓をどう活かせばいいのか、そのビジョンを語っています。氏は講演の中で、ロボットが任意でオブジェクトを掴むことができて、初めて工場や倉庫の全自動化が可能になる、としています。ロボット工学の最前線ではAIによる自律操作の研究が進められており、フェッチ社では「Open AIプロジェクト」を通じて、アーム研究者やユーザーにプラットフォームと情報を提供しているそうです。AIとロボットの融合が加速し、社会でロボットが重要な役割を果たすであろう未来を予測します。そのため企業でも「CRO(Chief Robotics Officer=最高ロボット責任者)」を置くケースが増え、先進企業が本格的に体制を整えようとしていることが伺えます。

 2018年のRoboBusinesでは次世代のロボティクスの動向として次のことが各分野から語られました。「フレキシブル・ソリューションもしくはAMRによるソリューションによる人不足に対する人員削減が要求されている。協働ロボットの出現によってそれが可能となった。」とメロニー・ワイズ氏(Melonee Wise)。クカ社(Kuka)のアンディー・チャン(Andy Chang)氏は、クカ社では、もっとロボットをプログラミングなしで簡単に稼働できるよう努力しているとコメントしました。ロボットをモバイルプラットフォームに装着するには、マップ環境の簡潔化と3Dビジョンが不可欠です。

農業分野においては、屋外ロボットやフルーツピッカーには自律機能が必要があることが語られました。MASS Robotics(マサチューセッツにあるロボットビジネスのクラスター)には、200社が参画しているが、そこではキッチンロボットが開発されているようです。

メロニー・ワイズ氏曰く、機能に対する対価がキーであり、価値と値段の比較によって家庭ロボットの浸透が決まる。残念ながら、まだまだ将来の事である。しかし、医療、小売などの特別分野では、導入可能である、と語っています。


 このように変遷を見ていると、2004年当時のエンターテイメント系ロボットから物流を主とした、農業や介護、医療に入り込んだ、より実用的なロボットの開発が盛んに行われています。そこに不可欠なのは、ロボットのクラウド化やAIによる深層学習です。来るべき未来、私たちの社会にどのようにロボットが浸透しているのか、非常に楽しみですね。


RoboBusiness基調講演風景