RoboBiz2019リポート 6

-モバイルロボットの将来-

筆者のイノベーション・マトリックスが取り扱っている協働ロボットメーカー、米プリサイス・オートメーション(Precise Automation)のブライアン・カーライル(BrianCarlisle)共同創業者CEOのセッションに参加しました。ちなみに氏は筆者が以前に所属していたAdept Technology(現オムロンアデプト テクノロジーズ)の共同創業者であり、そのCEOを20年間務め、同社をロボット販売で1億ドル以上に成長させた立役者でもあります。

 

弊社取り扱いモバイル型搬送ロボットのFetchとFreight

セッションでカーライル氏はプリサイス社の製品を含むモバイルロボット全般の将来の方向性を次のように語りました。

  • ラボ・オートメーション、半導体ファブ、農業、マシン・ローディング、検査、オーダーピッキング、倉庫オートメーションなど、様々なロボットのモバイル化が始まった。
  • 75台の走行ロボットプラットに搭載されたプリサイス社のスカラ型協働ロボットがラボ・オートメーションや半導体ファブの現場で稼働している。
  • グリーンハウス内の走行レールに搭載された協働ロボットがトマトの色を検知して収穫をするという農業アプリケーションも出てきた。グリーンハウスでの農作物はペストコントロールの必要もなく、温度も保てるので一年を通して、スーパーマーケット内で生産し、真に現地直送という店内生産が可能となるわけである。)
  • IMRobotのようにアーム付きロボットが棚を移動し、注文をピックするというロボットが現実化している。特に薬局におけるオーダーピックのロボットは将来性が高い。
  • モバイルロボットの難点は、ロボットアームが伸びた姿勢時の走行プラットフォームの安定性である。
  • 協働ロボットは使いやすく設計されている分、SI(システム・インテグレーター)の提供する作業が少なくなり、SI価値が下がっているという問題が発生している。
  • 生産を早く行うためには高速である必要があるが、協働現場においては安全な必要がある。従来の産業用ロボットでは毎秒10メートルのスピードが可能であるが、それを毎秒1.5メートルほどに下げる必要がある。

 

 

もちろんクリアすべき課題も多くあり、カーライル氏は次のような課題を挙げていました。

  • 移動するプラットフォームの大きさに制限されるのでバッテリーのサイズで電力容量に制限がある。
  • 通常、ロボットと走行プラットフォームは別のメーカーの製品の合体であるので、両モジュール間でのコミュニケーションが限定されている。
  • LiDARなどの障害物センサーは走行プラットフォームにしかついていないのでロボットアームの高さの障害物を検知できない。
  • 走行フラットフォームがオムニ(無指向)性でないので、位置決め調整などが困難である。
  • ワイヤレス充電が必要
  • ロボットの姿勢に関係なく安定できるプラットフォームが必要
  • 多くのロボットの制御装置が大きい

 

Precise AutomationのPF3400 SCARA 協働ロボット

彼の見地から、現在モバイルロボットは物流業界に限らず様々な業界で導入が始まっているということが分かります。これは、以前に取り上げたアッシュ・シャーマ(Ash Sharma)氏の講演にも通じるところがあり、業界にかかわらず爆発的にモバイルロボットが普及している現実が見て取れます。そして、そこに生じているのはロボットアームへの日に日に大きくなっている需要です。

その分野において、協働ロボットのロボットアームにおける新たな動きを今回のRobobizで実感しました。スタンフォード大学でロボット工学を学んだ研究者たちが、「現在のロボットは十分なインテリジェンス、汎用性がなく、ビジネスの変動に調整ができない」という背景から、中国の資本でFlexIVというロボット工学とAIを融合した会社を創立し、最初の適応ロボットとして「Rizon」というロボットをリリースしています。各軸に力センサーを持った7軸の垂直多関節ロボットです。適応ロボットの最大のメリットは柔軟性を持って嵌め合いなどができることです。力センサーを使って、コネクターの嵌め合いや組み立てを治具なしで行えるのです。同様にバッフィングや研磨も得意とする分野でもあり、柔らかいものから硬いものまで掴むことができます。その上、ツールチェンジャーがいらないのでハンド取り替えの時間を節約できるという、メリットも兼ね備えます。適応ロボットアプリケーションは、昔からアデプト社では行なっていますが、外付けの力センサーなしでできるようになったのは革新的でしょう。

 

また、協働ロボットとしての安全性の対応としてロボットが外力に反力で動きを回避できる機能があり、7軸のロボットであるので、手首の姿勢を保ちながら移動するとか、位置とオリエンテーションを保ちながら腕が移動する動きを選択する事が可能でもあります。

 

この画期的なロボットの出現は、同マーケットで先行しているデンマークのユニバーサルロボットの競合となる可能性が十分にあります。こういった新たな新興企業の出現は、既存の技術力の底上げや開発スピードを上げていくのに、大きなアクセルになるのではないでしょうか。今後、モバイルロボットの普及に欠かせないロボットアーム。この業界の動向を、注視していきたいと思います。

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